11月14日に「徳洲会のMS法人のうち6社の新社長に徳田虎雄氏が就任」と報道されました。その後、虎雄氏が社長に就任した関連企業の数は増え、最終的には14社全ての社長に就任する予定だそうです。この事実は徳洲会本部から当院をはじめとする全国の病院への通知はありませんでした。メディアは、虎雄氏が医療法人の理事長を退任後も院政を敷くものだと指摘してます。
恥ずかしながら今回まで私は、MS法人がどういうもので、徳洲会にはどのようなものがあるかについては、株式会社徳洲会(以下カブトク)をはじめとする数社以外ほとんど知りませんでした。折角の機会なので少し調べてみました。
□MS法人とは
MS法人とは、メディカル・サービス法人の略称で、医療系のサービスを事業目的にする株式会社などです。医療法人は医療行為を行うための法人で、医療法で非営利と規定されていますが、MS法人は営利法人なので医療法の適用は受けません。以前は、個人経営の小規模病院や開業医の節税対策として利用されることが多かったのですが、最近では節税効果が小さくなったので、その目的だけで設立されることは少なくなったようです。
一般にMS法人の役員には、関連する医療法人の理事・社員・病院長が深く関係していることがほとんどで、MS法人が単体で事業を行っていることは稀で、徳洲会グループのMS法人にも当てはまります。MS法人の主な業務は、リネン類の取り扱い・医療機器のレンタル・建物や敷地の賃貸業務・資金調達などです。
□MS法人を設立するメリット
富山綜合法律事務所のホームページによると、MS法人を設立するメリットは以下のようになります。
@収益業務ができる
A医療法人の庶務業務全体をカバーできる
B節税効果が期待できる
C役員については医師資格などが不要
DMS法人自体は行政当局の許認可が不要
徳洲会グループの場合は鈴木理事長によると、MS法人で得られた利益を財源にして、一般社団法人徳洲会が奨学金制度を運用しているそうで、医療法人が奨学金を出すことはできないとのことでした。また私の記憶違いかもしれませんが、赤字病院の補填の財源にもなっているという話もあったように思います。
□MS法人の役員構成の注意点
前述の富山綜合法律事務所のホームページによると、MS法人の代表取締役と医療法人の理事長が同一人物である場合は、利益相反の可能性があるので、兼務は避けるのが賢明とのことです。さらに、理事長が取締役を兼務、理事が代表取締役を兼務、理事が取締役を兼務することは、従来は問題ないと考えられていましたが、問題が生じる可能性があるという通達が平成24年3月に厚労省からありました。
徳田虎雄氏が医療法人の理事長を退任した翌日に、理事も退任すると発表されました。これは完全に医療法人から身を引くという意味だと思いますが、MS法人の社長に就任するためだったという意地悪い見方もできなくありません。
□徳洲会グループのMS法人
徳洲会グループにはどのようなMS法人があるかというと、どうも14社あるらしいのですが、一覧表のようなものは今回検索した限りでは見つけることができませんでした。11月15日現在、14社中11社で徳田虎雄氏が新社長になっていると東京本部は取材に答えています。主なMS法人と親族である前社長(敬称略)と業務内容は以下のようなものです。
カブトク 長女 徳美 医薬品・医療機器納入の仲介
建物管理 次女 美千代 病院建設の際に業者と交渉
IMS 次女 美千代 医療機器販売
IHS 次女 美千代 各種保険の取り扱い
IML 四女 ゆかり 医療用事務機器の販売と賃貸
ダイエタリーケア 四女 ゆかり 病院給食事業
(IMS;インテグレート・メディカル・システム)
(IHS;インターナショナル・ホスピタル・サービス)
(IML;インターナショナル・メディカル・リース)
カブトクのホームページを見ると、平成23年12月22日以降は実質的に更新されていません。これは対外的な業務がないからでしょうが、2年近くも更新されない株式会社のホームページは珍しいのではないでしょうか。その他のMS法人はそもそもホームページさえないものが多いのです。
ほとんどが親族によって経営されるMS法人が、これだけ多く存在する必要性があるのかということから検証する必要があります。毅代議士への献金の9割が親族やその系列企業からということです。政治資金規正法では、1社あたりの献金の上限が750万円なので、系列企業が多くあればあるほど献金額が増えます。まさかそのために、多くの企業が生まれたわけではなく、他に理由があるのでしょう。幸い、このことについては以下に示す通り徳田虎雄氏の理事長退任の表明や鈴木新理事長の所信表明でも触れられているので、必ずや明らかにされるものと期待しています。
□徳田虎雄氏の理事長退任表明からMS法人に関する部分の抜粋
多くの医療法人や関連会社が設立されていくにつれ、結果として非営利企業(医療法人グループ)と関連会社(MS法人グループ)の家族支配という批判を受けるに至りました。この際、私は責任をもってMS法人の再編を進めるなかで、必要な機能を残すとともに、組織の透明性を高めたいと考えています。それに伴い、経営にかかわってきた私の家族につきましても、責任をもって対処する所存です。
□鈴木隆夫新理事長の所信表明からMS法人に関する部分の抜粋
グループ内外から多くのご指摘があります非営利法人と営利法人(MS法人)との間の取引につきましては、第三者の意見を取り入れて、MS法人内の運営・経営における透明化を求めていく所存です。徳田ファミリーの処遇につきましては、徳田理事長が責任をもって対処すると明言されています。
□徳洲会のMS法人を利用した利益の移転
ところで、徳洲会のMS法人を利用した利益の移転が発覚した事件が過去にありました。日本経済新聞平成16年3月13日朝刊によると、徳洲会の系列企業2社(IMSとIML)が、医療機器リース代を通常より高く設定し、病院の経費を水増しして、利益を外部に移転したということです。そのため2003年までの7年間に総額約18億円の所得隠しが指摘され、重加算税を含め約7億円が追徴課税されています。
その仕組の一例は以下のようなものだったようです。
@IMSが心カテ装置4台を約4億円でまとめ買いで安く購入
Aこれを直接病院にリースしないでダミー会社に売却
Bダミー会社はリース会社に約10億円で売却
Cリース会社はIMLに転貸する
DIMLが徳洲会系の病院にリースする
Eダミー会社が得た約4億円の利益を徳洲会に戻す
□メディアの取材に対して東京本部が出したコメント
徳田虎雄氏が関連企業の社長に就任したことに関して、メディアの取材があり、それに対して東京本部が出したコメントは以下のようなものでした。
「これはあくまでも暫定的措置であり、適任者が見つかり次第すぐに変えるつもりである。残る3社も虎雄氏を社長にするつもりである。大きな企業じゃないから専務が社長に上がれば良いとか簡単にはいかないので、株主である虎雄氏に任せるのが自然な流れである。」
□徳田虎雄氏がMS法人の社長に就任したことの何が問題か?
メディアでは虎雄氏が医療法人の理事長を退任後も院政を敷くものだと批判しています。虎雄氏にそのような考えがあるかどうかはわかりませんが、これだけの事件を起こして、上記のような退任表明を出したのであれば、自らすすんで社長に就任したことを発表すべきです。その上で、暫定措置であるのなら、新体制を発足するまでの猶予期間を示し、その時点で最終的な状況を説明すればよいのです。透明性を高めたいと言っておきながら、このような対応は矛盾し、社会への説明責任を果たしていない不誠実な態度と言えます。今回の社長就任が、徳洲会からではなくメディアから発信された情報であることが、徳洲会グループの閉鎖性を物語っています。
院長 笹壁弘嗣
平成25年11月20日(水)
・過去に新庄朝日等に掲載されたコラムがご覧いただけます。